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東京高等裁判所 平成9年(ラ)2205号 決定 1997年11月13日

抗告人

株式会社富士通東北エレクトロニクス

右代表者代表取締役

本澤佑弘

右代理人弁護士

植松宏嘉

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由

別紙「執行抗告の申立書」に記載のとおりである。

二  抗告理由についての当裁判所の判断

会社更生法六七条一項は、更生手続開始の決定があったときは、更生債権若しくは更生担保権に基づく会社財産に対する競売はすることができず、更生債権若しくは更生担保権に基づき会社財産に対し既にされている競売の手続は中止すると定めているところ、ここにいう競売には、特別の先取特権に基づく債権に対する担保権の実行も含まれると解される。

ところで、民事執行法一九三条二項、一四三条によれば、債権に対する担保権の実行は、執行裁判所の差押命令により開始されるのであるから、債権差押及び転付命令の申立がされても、差押命令の発令前の段階においては、中止されるべき担保権の実行手続は存在しないものといわざるをえない。そして、更生手続開始の決定があったことは執行障害事由であるから、担保権の実行の手続を開始することはできず、担保権実行の申立は、更生手続開始の決定の前にされていたとしても、却下されることになると解される。

抗告人は、更生手続開始の決定があったときは、その後にあらたにされた担保権実行の申立は却下されるが、右開始の決定の以前にされた申立は遡って不適法になるものではなく、当然に中止されるものである、と主張する。しかし、会社更生法六七条一項の規定から当然にこのような解釈が導き出せるものではなく、右主張は採用することができない。

三  結論

よって、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 筏津順子 裁判官 山田知司)

別紙執行抗告の申立書

執行抗告の理由

1.原審裁判所が本件債権差押及び転付命令の申立を却下した理由は、「本件差押命令を発する前に、債務者である東海興業株式会社について更生手続開始決定がなされたので、会社更生法六七条一項前段により、本件申立は不適法として却下されるべきものである」というものである。

2.これは原審裁判所が明らかに会社更生法六七条一項の解釈を誤り、本率の根拠無く、違法に債権者の申立を却下したものであり、該決定は取り消されるべきものである。

3.会社更生法六七条一項は、

「更生手続開始の決定があったときは、破産、和議開始、更生手続開始、整理開始若しくは特別清算開始の申立て並びに更生債権若しくは更生担保権に基づく会社財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、競売、及び企業担保権の実行は、することができず、破産手続ならびに更生債権若しくは更生担保権に基づき会社財産に対し既になされている強制執行、仮差押え、仮処分、競売の手続及び企業担保権の実行手続は、中止し、和議手続、整理手続及び特別清算手続は、その効力を失う。」

と規定している。

これは、

① 更生手続開始の決定の後は、あらたな強制執行の申立は許されない。

② 更生手続開始の決定前になされた強制執行の手続は当然に中止される。

③ 更生手続開始の決定が取り消されたり、更生計画が認可されなかった場合は、中止されていた強制執行の手続は再び続行される。

ということを規定したものであり、この解釈に異論、異説は無い。

4.念のため、参考文献を次に引用する。

弘文堂発行の条解会社更生法の該条文の解説は次の通り記述されている。

「更生手続開始決定の効果として、あらたな申立が禁止され、すでに継続中であれば失効しまたは中止される(中略)。破産手続は開始決定によって中止するだけであるが、和議、整理、特別清算手続は失効してしまう。(中略)。中止または失効するのは、その手続がまだ開始される前の申立段階にあるか、すでに開始されているかを問わない。

強制失効・仮差押・仮処分、競売法による競売手続も、更生債権または更生担保権に基づき会社財産に対してなされる限り、そのあらたな申立は禁止され、すでに着手されているときは当然に中止する。(中略)あらたな申立がなされた場合には、裁判所は不適法として却下しなければならない。

会社更生手続開始の決定があったときは、継続中の……強制執行手続……はそれぞれ中止する。

手続の中止とは、手続がその時点の状態で凍結され、その続行が許されないことをいい、それ以上の効力を有するものではない。

中止中の強制執行……の各手続も更生計画認可決定があったときは効力を失う。

計画認可決定前に更生手続が終了し(開始決定取消、計画認可前の手続廃止、計画不認可)これが確定した場合には、中止中のこれら手続は当然に続行される。」

また民事法研究会発行の「書式 債権・動産等執行の実務」一四頁以下にも全く同旨の記載がある。

以上のことから分かるように、会社更生法は、個々の強制執行の手続を凍結して会社更生法による手続に一本化することを行っているのであり、更生計画が認可されれば、一本化が成功したわけであるから、強制執行の手続の効力を失わせるが、更生計画が認可されなければ、再び強制執行の手続を続行させる、という構成になっているのである。決して会社更生手続開始の決定があったからと言って、ただちに強制執行の手続が申立時に遡って効力を失ってしまうと規定したものではない。

5.以上から明らかなように、会社更生手続開始の決定があったときは、強制執行はあらたな申立は却下されるが、開始決定以前になされた申立は、申立段階であると、もっと進んだ段階であるとを問わず、当然に中止されるものであり、それ以上の効力、すなわち遡って申立自体を不適法として却下し得る旨の規定は存在しない。

本件は平成九年九月一日に申立てられ、同年九月一〇日午後五時に会社更生手続開始の決定があったのであるから、会社更生法六七条一項により九月一〇日午後五時の時点でそのまま凍結されるのであって、原審裁判所は何もする必要はないし、また何もしてはならないのである。然るに原審裁判所が九月二九日になって、これを九月一日に遡って違法として却下したのは、法律に定めのない、違法な決定をしたものであることは明らかである。もしこのような決定が法的に許されるのであれば、裁判官は更生手続開始の決定前に強制執行の申立があっても、敢えて何もせずに事件を温め、ひたすら更生手続開始の決定を待ち、然るのち却下の決定をすることを得ることとなり、これは実質上裁判の拒否で許されないものであるのみならず、更生手続が計画認可決定前に終了したときに債権者は強制執行手続を再び続行することができず、回復し難い損害を破ることもあり得るものであり、その不当なることは明らかである。

6.よって申立人債権者は本件決定の取消を求めるものである。

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